マリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20年近く前にアフリカを旅していたとき、
満月の夜におもしろい体験をしたことがあります。

改造トラックに乗ってキャンプでアフリカ大陸を縦断するツアーで、
毎晩適当な場所(キャンプ場のときもあれば、教会や学校の敷地を借りることもある)に
テントをはって寝泊まりしながら移動するという、
まさにジプシー的生活をしていました。

西アフリカを旅しているとき、ある晩、夕食の片付けを終え、
テントで休んでいました。

眠りについてしばらくしたころでしょうか。
外がにわかににぎやかになり、だんだん騒がしくなってきたのです。

叫び声とか、太鼓の音とか、とても騒々しく、
一体なにが起きているのかという感じです。

でも、テントに鍵があるわけでもなく(あっても意味がないですが)、
見知らぬ土地でおかしな集団に囲まれても怖いので、
確認することもできず、ひたすら、その音が静まるのを待っていました。

結局、朝が来るまでその騒ぎは静まらず、わたしは眠れないまま朝を迎えました。

朝の訪れとともにその喧噪もおさまり、わたしはようやくテントの外へ出ました。
さっきまで人がいた気配はしたものの、
すでに人影はなく、いつもと変わらぬ静かな朝でした。

その日は他のメンバーも朝が遅くて、なかなか朝食にあらわれません。
いつもより遅い出発の時間になって、わらわらと仲間が集まってきました。

「昨日の満月の夜の祭りは楽しかったなぁ」
「ドゴンのビールも試したぜ」

口々にそんな話をしていたのでした。

どうも昨夜の恐ろしい大騒ぎは、昨日が満月の夜で、
そのお祭りのためだったらしいということを、
仲間の話からようやく知ったのでした。

それ以降、西アフリカのドゴンの村で遭遇した、満月の夜の大騒ぎのお祭りは、
わたしの記憶の中に長い間しまいこまれていたのですが、
最近、そのお祭りのことをもう一度思いだす機会に出くわしたのです。

それは、富士山の麓でペンションを営んでいる
星が大好きな不思議な男性に出会ったことがきっかけです。

彼は、世界中を旅行したことがあり、彼のペンションには、
世界中の珍しい品がたくさん飾られています。

オーストラリアの珍しいサボテンでつくられたマラカス、
サハラの薔薇といわれる石と砂、
アラビアの香油瓶など。

彼はまるで催眠誘導のような、意識に語りかけるような不思議な波長で
いつもおもしろい話を聞かせてくれるのですが、
あるとき彼が西アフリカのある村に住む、不思議な民族について話してくれたのです。

その民族、ドゴン族の男たちは、夜な夜な集落を出て崖を越え、
ある場所に向かう。
そこには、天井のないドーム型の建物があり、
その中に黙って入り、ある儀式をする。

建物の構造は、まるで望遠鏡の中に入り込んだかのようで、
星が手に届きそうなくらい、よく見える。
星と、自分との対話であり、イニシエーションの儀式なのだ、
というものでした。

その話を聞いてはじめて、わたしが体験したあの西アフリカの満月の晩の騒ぎが、
星との関わりの深いドゴン族によるものであり、
星に祈る民族の、意味深い儀式だったのだと知ったのです。

沖縄の久高島や、インカ帝国、太陽神を祀る宗教など、
太陽に祈るという人たちが存在するのと同時に、

この地球にはドゴン族のように、
星に祈る人たちも存在するのだということも初めて知りました。

学術的にどうなのかはわかりませんが、
満月の夜のあの祭りは、満月をたたえる祭りなのではなくて、
もしかしたら星の見えない夜を、安心して過ごすための
祈りの形なのかもしれないと、わたしは思うのです。

昼の世界は、すべてが見えるから、見失うことは少ない。
だから、なにか手がかりを定めていなくてもわりと大丈夫だけれど、

夜の世界は、まわりが見えないぶん、なにか指標となるものが必要で、
だから人は、北極星を信仰したり、動かないものを求めたりするのかもしれないなあ。

満月の夜には、手がかりになる星をみることができないから、
集まって踊って、ともに祈るのかな、
そんなことを考えたのでした。

さて。
満月の前後は、ご相談をいただくことが増えます。
迷いが出やすい時期なのかなと、わたしの体験では感じます。

勝ち組といわれるような、アグレッシブで前向きな人たちが、
「陽」の世界の人で、太陽にむかって生きる人たちだとしたら、
悲しみや苦しみとともに生きている人は、
「陰」の世界の人で、
星とともに生きている人のようだなと思います。

陰の世界の人は、
北極星のように目印になる動かない星が自分の中に必要で、
それさえ見失わなければ、しっかりと安心していられるように思うのです。

その自分の中にある星は、宇宙とつながる使命であり、
その人のいのちの意味なのかな、
わたしはそう感じています。

そして、それさえ見失わなければ、
どんな不安な夜も乗り越えていかれるのかなと。

満月の夜は、ちょっぴりそれがみえにくい。
だから、行き先がわかりづらくて不安になるのかな、
そんなふうに感じています。

西アフリカで出合ったあの満月の夜の、
不思議な祭りのようなエネルギーをあなたに送ります。

星の見えない晩の不安をとりのぞいて、
また自信をもって、
人生の旅路をすすんでいただけますようにと祈って。
マリ